昭和の大横綱、千代の富士の引退会見の言葉を覚えている方も多いことでしょう。
「体力の限界!気力も無くなり、引退することになりました…」。
私も涙したことを思い出します。
話は変わるのですが、先日、ある会社から事業再生の相談を受けました。
残念ながらここ数年ずっと営業赤字が続いており、ついに銀行の融資もストップ、リスケにも応じてもらえない状況です。
客観的状況は正直「アウト」です。
ただ、中に入ってみてわかったのですが、事業のポテンシャルは非常に高く、経営をわかっている人がやればすぐにでも利益が出せる内容です。
良くある話ですが、社長はこれまで全く経営に携わったこともなく、またその気もなかったのですが、ひょんなことから家業を引き受けざるを得なくなり、誰も頼る人もなく孤軍奮闘してきました。
話を聞けば聞くほど、涙なみだの物語でした。
1%でも再生の可能性があるのなら、そこにかけてみたい。
そんな気持ちで、これから生き残るための徹底的なリストラ、コスト構造見直し、収益源の選択と集中、目先のキャッシュを稼ぐ施策などを社長と一緒に検討しました。
なんとか一筋の光が見えかけたのですが、肝心の社長の顔は晴れません。
さらに重苦しい表情になっています。
そこで改めて気づいたのですが、私が議論していたことは表面上の技術論であって、事業再生にもっとも大切なことが抜け落ちていました。
社長は資金繰りに奔走し続け、明日つぶれる不安とずっと戦いながら今日まで生きながらえてきました。
しかし、時すでに遅し、体力・気力の限界を迎えていました。
正しい経営、間違った経営など関係ありません。
とにかく社長は頑張った。
そして、力尽きた…。。。
この企業のポテンシャルを活かせないのはもったいないことですが、経営をするのは社長自身です。
社長が刀折れ矢尽きたなら、もう「引退」しかない。
事業再生は無理でしょう。
今は、
「お疲れ様。あなたは今までよく戦った。」
と声をかけるのが私の役割だと思っています。